子供は大人より知恵がないもの、考えが足りないもの、力がないものと考える傾向があります。でも、果たしてそうでしょうか。むしろ、大人が失ってしまっている逞しい生命力を、子供たちは全身に秘めているのではないでしょうか。
過保護に育てられている現代の子供は、自分自身の持っている力に気付かず、自分の生き方に自信を失っているように見えます。こうした子供たちに、子供の素晴らしさを発見させ、純心さ、素朴さ、苦境からの回復力、好奇心、発想の豊かさなどを保持し、自分たちの可能性に自信を持たせ、これから先の生活を切り開いてもらいたいという願いを込めて、この劇を制作することになりました。
子供たちがこの劇の中から、子供はいつも前向きにものを考え、大人にも負けない知恵と生活を切り開いていく力を持っていること、どんな苦境に立たされても、子供は未来に向かって立ち上がる生命力を持っていることを、感じとってくれたらと考えています。
また、劇が展開される状況の中から、自然は一つの調和を失うと崩れていく事を知り、自然を愛護する気持ちが育めればとも願っています。
昔々、相良の国は和泉村の天狗山の麓に、大きな大きな杉の木が聳え立っていました。村の人々に「天狗杉」と大切にされているこの杉の木は、根元から綺麗な水がこんこんと湧き出ていました。
ある年のこと、この泉村に大変な事が起こりました。村に代官がやって来て、この天狗杉を切り倒すというのです。村の名主さんも、これにはびっくり仰天、「天狗杉を切り倒したら、泉の水が枯れ、村では飲み水がなくなり、作物もできなくなってしまいます。こればかりは・・・」と頼むのですが、聞き入れてもらえません。代官は、とても悪い事に天狗杉を使おうとしているのですから、村人がいくら反対してもどうにもならないのです。
これを知ったトロッ平とサル平、普段は悪戯好きのわんぱく小僧ですが、この大好きな天狗杉が切り倒されるのは一大事と、知恵をしぼって、あの手この手と天狗杉を守る作戦を立てました。
トロッ平の面白い戦法が成功して、何度も木を切りに来た役人たちを撃退し、天狗杉を危機から救うのですが、しかし・・・
この作品は、初演以来30数年を超え、今尚続演記録を更新中です。時代や社会が変わり、絆の在り方ばかりか人間そのものまで変わったといわれますが、この舞台の公演中の反応、公演後の感想文などから私たちが感じるのは、子供たちの心の柔らかさは変わってなどいないという事です。
子供たちの、困難から立ち上がり、前向きに夢や希望に向かっていこうとする力そのものは大人に負けません。むしろ逞しい生命力を全身に秘めています。その自信を失わせているのは、もしかしたら、大人の方かもしれません。
さまざまな災害を経験した今だからこそ、トロッ平たちの活躍を通して、自分たちの可能性に気づき、自ら何かに立ち向かっていく勇気や、誰かと力を合わせ、共に生きる事の喜びを感じてもらえたらと願っています。
<作品情報>
・作/有明三太郎
・演出/平塚仁郎
・上演時間/約105分(休憩10分)
・対象/小学生
木を切られちゃってひやひやしたけど、木こりが苗を持ってきてみんなで踊って終わって良かったです。トロッ平たちが天狗に化けて、おじいさんが天狗のせりふをしゃべっているときが面白かったです。
小学校二年生
小さい天狗と大きい天狗が出て来ました。切られた木が生きていてよかったです。
小学校一年生
最初はずっと笑っていたけど、だんだんじーんと来て泣き出してしまいました。やっぱり今まで大事にしていた物が無くなると悲しいですし、大事な物は守りたいです。今日はトロッ平たちに会えてよかったです。
N高等学校3年生男子生徒
ただ大切な木を守るだけではなく、壊された環境を力を合わせて守っていこうという現代へのメッセージが託されている素敵な作品だと思いました。
トロッ平とサル平が知恵を尽くし、力を尽くして村の天狗杉を守る姿に感動しました。私たちが便利さを求めて地球を壊している事を一人一人考え反省し改めて行く努力をしなければならないと思いました。
とても丁寧に作られていて、ぐっと涙が出そうになる場面と、笑えるところとのギャップが良かった。生徒たちも心から楽しんでいた。
演技が自然で、俳優さんの全員の声が明るくハキハキしており、動きもキビキビしていて気持ち良かったです。力のこもったチームワークがとても素晴らしかった!